「江戸川乱歩傑作選」(江戸川乱歩)

ここから乱歩の危ない世界に入門してください

「江戸川乱歩傑作選」(江戸川乱歩)
 新潮文庫

ある日、
「私」の机上の
二銭銅貨が2つに割れ、
中に暗号文が隠されていることを
見つけた松村。
それを解読した松村は、
泥棒の隠し金を手に入れたと
喜び勇んで帰ってくる。
「俺は君より頭がいい」と
豪語する松村に対し、私は…。
「二銭銅貨」

湯治場で出会った二人の癈人。
戦争で
見るも無惨な姿となった斎藤と、
かつて犯した犯罪によって
心を病む井原であった。
井原はその罪を
斎藤に告白し始める。
だが、それを聞いた斎藤の口から、
思いもよらない真実が…。
「二癈人」

「私」はD坂にあるカフェの窓から、
向かいの古書店の異変に気付く。
「私」は同席していた
妙な男・明智とともに
古書店を探ると、
そこには店主の妻の絞殺体が…。
「私」は独自の調査の結果、明智が
その犯人であることを確信する…。
「D坂の殺人事件」

江戸川乱歩の著作権が没後50年の
2015年で終了したのを機に、
各出版社から新編集の文庫本が
雨後の筍のように刊行されました。
それ自体は喜ばしいことなのですが、
中には乱歩作品へのリスペクトの念の
欠けたものも見られ、
複雑な思いを抱いています。
そんな中にあって本書は
1960年から出版され続けている、
乱歩入門書ともいえる一冊です。

金目当てで老婆を殺害した
貧しい大学生・蕗屋。
心理試験の専門家の笠森判事が
事件の担当となったことを
知った彼は、十分な対策を講じ、
その心理試験を乗り切る。
しかし、その完璧すぎる結果に、
明智小五郎が疑問を抱く…。
「心理試験」

真紅の重々しい垂れ絹で
飾られた赤い部屋。
そこには異常な興奮を求めて
七人の男が集まっていた。
その一人のTが語り始めたのは、
自身が行ってきた99人もの
殺人のあらましであった。
話し終えた彼が取り出したのは
一丁の拳銃…。
「赤い部屋」

酒や女も含め、
この世のすべてに興味を持てず、
退屈な日々を送っていた郷田三郎。
彼は引っ越した新築の下宿の
押し入れの天井板が外れ、
屋根裏に通じていることに、
偶然にも気付く。
その日から彼の
「屋根裏の散歩」が始まるが…。
「屋根裏の散歩者」

ここに収録されている短編9編は、
どれも乱歩の代表作といえる
味わい深いものばかりです。
これらはおおむね3つに分けられます。
心理サスペンス的要素の強い
「二銭銅貨」「二廃人」「赤い部屋」、
明智小五郎初期短篇
「D坂の殺人事件」「心理試験」
「屋根裏の散歩者」、
醜悪の極みともいえる
「人間椅子」「鏡地獄」「芋虫」。
(欲を言えば「二廃人」と
「赤い部屋」を外して
「人でなしの恋」「押絵と旅する男」
加わっていれば完璧だったのですが)。

雑誌編集の仕事に携わっている
佳子のもとに、ある原稿が届く。
そこには驚愕すべきことが
書かれてあった。
ある職人が自ら製作した
椅子の中に入りこみ、
座った人間の感触を
楽しんでいるのだという。
そしてその椅子は…。
「人間椅子」

幼少期から鏡やレンズに
異常な興味を示していた「彼」は、
ついに親の遺産で
実験室を建築する。
彼はそこに籠もるようになり、
病的な嗜好は
ますます激化していった。
ある日、「私」が
「彼」の使用人に呼ばれ、
実験室に入ると…。
「鏡地獄」

時子の夫は戦争で
両手両足・聴覚・言語といった
五感のほとんどを失い、
「芋虫」のような醜い姿となっても
生き続けていた。
時子はそんな夫を
虐げて快感を得ることに
心地よさを感じていた。
彼女の嗜虐心はさらに昂ぶり、
ついには…。
「芋虫」

乱歩作品については幸いなことに、
光文社文庫から江戸川乱歩全集が
全30巻で出版されていて、
刊行から15年近くたった今でもまだ
全巻流通しているようです。
私は全巻揃え、
至福の時間を味わっているのですが、
そこまで深くはまりたくない方には
うってつけの一冊です。
ここから乱歩の危ない世界に
入門してください。

(2020.1.24)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「二銭銅貨」(江戸川乱歩)
「二癈人」(江戸川乱歩)
「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩)
「心理試験」(江戸川乱歩)
「赤い部屋」(江戸川乱歩)
「屋根裏の散歩者」(江戸川乱歩)
「人間椅子」(江戸川乱歩)
「鏡地獄」(江戸川乱歩)

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